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Channel: 阪急沿線文学散歩
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『浜風受くる日々に』に登場するヴォーリズの神戸女学院

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 『浜風受くる日々に』の著者風見梢太郎氏はこの作品を著した理由の一つとして「失われつつある阪神地方の広い意味の文化遺産を書き留めておきたかった。」と述べています。その小説の舞台として登場する文化遺産の一つが神戸女学院です。  K高校(甲陽学院)に編入学した主人公波多野哲郎は新聞部に入部します。K高校新聞部には近隣の高校の様子を紹介する「他校訪問」連載の企画があり、同じ市内にあるプロテスタント系の女子高に同じ新聞部の青山と取材に出掛けるのです。<金曜日の放課後、哲郎と青山は電車を乗り継いでM駅に出かけた。駅で待ち受けていた女学生は蔵川亜希、と名乗った。亜希はスラリと背が高く、日本人離れした整った顔立ちをしていた。哲郎は亜希が制服を着ていないことに驚いた。制服のない学校だろう。>  今や珍しくもない光景かも知れませんが、五十年近く前には、私も私服の中高校生のお嬢様達が西宮北口駅で今津線の先頭車両に乗るのを眺めて、その華やかさに圧倒されていました。 <「あれなの?」青山が訊ねると、亜希は無言で頷いた。哲郎は、古いスペイン風の校舎に興味を覚えた。どんなひとたちが造ったのだろう。そのことを尋ねると、亜希は、待ってましたとばかりに校舎を設計したウイリアム・メレル・ヴォーリズについて語り始めた。> <「とりあえず、一番ヴォーリズの建物らしいところに行きませんか」アーチ型の門のところに来ると、亜希が言った。哲郎と青山が頷いた。「多分、講堂のところが一番だと思います」亜希はそう言って、先に立って歩き始めた。> 講堂の入り口には昭和6年の定礎式の記念石が残されていました。   <哲郎は筒型に湾曲した屋根の瓦の色が一枚一枚微妙に違っているのに気がついた。なんという贅沢なつくりだろう。 「建物の間が全部回廊でつながっているんです」亜希は、右手に見える背の低い細長い建物に歩み寄った。「歩いてみますか」亜希が言うので、哲郎と青山はおっかなびっくりで、回廊に足を踏み入れた。 ずっと向こうまで続く静かな回廊に夕日が斜めに差し込んでいた。回廊に人気はなかった。歩くためだけに作られた細長い空間は、哲郎に不思議な落ち着きを感じさせた。> 講堂から購買部へと続く回廊です。 そして総務館から文学館への回廊。 ソールチャペルの裏に廻ると、体育館とを結ぶ一番長く、美しい回廊があります。 置かれている長椅子も建設当時からのものらしく、落ち着いた雰囲気を作りだしていました。   <懇談が終わると、亜希は、帰る方向が一緒なので二人を送ると言った。青山と哲郎が亜希の後ろについて坂道を下っていくと、見上げるような石垣の前で、亜希は立ち止まった。「ちょっと寄っていきませんか」亜希は迷った様子で言った。石垣の上に聳え立っている邸宅が亜希の家なのだろう。…. 石垣を上がりきると、薔薇を一面に植えた前庭があり、その向こうに青緑色の瓦の二階家があった。白い壁には交差するように黒い木が埋め込まれていた。建物の入り口には凝った装飾をほどこした扉があった。>  著者の風見梢太郎氏の描いたK女学院の令嬢は野坂昭如とあまり変わらないイメージのようでした。  

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