山崎豊子『華麗なる一族』の阪神銀行は栄町通にあり、近くにある郵船ビルが次のように登場します。<万俵鉄平と銀平は、神戸港に臨んだ海岸通りの郵船ビルの地下のバーから外へ出、タクシーを探したが、つかまらないまま、海岸通りを三宮の方に向って歩き出した。> 実は郵船ビルには地下はないので、これはまったく山崎豊子による創作ですが、このような歴史的建造物にバーがあれば訪ねたくなります。<各国の珍しい酒が置いてある静かなバーで、たまたま、阪神特殊鋼の技術者たちをねぎらっていた鉄平が、見合いの帰途、抜け出して来たらしく、独りカウンターで飲んでいる銀平を見つけ、一緒に帰ろうと促したのだった。>現在の郵船ビルを訪ねてみますと、一階は大きいサイズの紳士服店となっていました。壁にはこのようなプレートが張り付けられており、初代米国領事館の跡地だったようで、次のように書かれていました。ON THIS SITE JULY 1863WAS ESTABLISHED THE FIRSTAMERICAN CONSULATE IN KOBE1863年7月(明治元年)この場所において神戸で最初のアメリカ領事館が開設されました。兵庫県神戸市中央区海岸通1丁目1-1神戸日米協会 創立80周年記念(1988年) 郵船ビルはその跡地に1918年、曾禰達蔵・中條精一郎の設計により旧日本郵船神戸支店として建設された近代ビルで、当初はこのビルの上に銅葺きの屋根と円形ドームがあったのですが、1945年の神戸大空襲で焼失しています。 幸運にも、1994年に施工された耐震補強工事によって、1995年の阪神・淡路大震災を軽微な被害で乗り越えたそうです。 銀平と同期の阪神銀行頭取秘書の速水英二もこのバーによく来るようです。<海岸通りにある郵船ビルの地下のバーで、速水英二は、ひとりカウンターに坐って、ハイボールを飲んでいた。洋酒通が女気無しに静かに酒をたしなむ溜まり場らしく、速水のようにカウンターにひとり坐って、黙って飲む常連が多い。> 旧居留地にあり、この雰囲気に近いバーは、BAR REQUEST(江戸町100 神戸旧居留地 高砂ビル1F)。 何度か行きましたが、テーブルチャージをとられないのか、驚くほどの安さで落ち着いて飲めるお勧めのバーです。 高砂ビルはいくつかの映画の撮影に使われており、4階の402号室で2009年夏にワーナーブラザーズ映画、北野武監督・ビートたけし出演映画『アウトレイジ』の撮影が行われており、無料でその部屋を見学できます。興味のある方はお立ちよりください。
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