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Channel: 阪急沿線文学散歩
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神戸オリエンタルホテル(『バラード神戸』第五編愛しのホテルより)

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田中良平著 『バラード神戸』第五編の主人公はオリエンタルに長年勤務していた内田修平です。  修平は現在はプチホテル北野の相談役、そこへ出版社編集者の桃花が訪ねてきて、神戸のオリエンタルホテのお話が始まります。 <わが国での洋風ホテルの発祥地は神戸だとするのが定説で、明治三年にフランス人経営で居留地に開業した外国人専用のホテルがそれであった。その後、オリエンタルホテルの名称で各国に名を知られ、地元経済人たちの熱望で日本人経営となったのが大正五年であった。英国の詩人キップリングの作品にも「このホテルの料理は世界の一流を超えている」と謳われたほどで、わが国最古の洋風ホテルの歴史に加えて、料理やサービスの良さでもオリエンタルの名は世界に知られてきた。> オリエンタルホテルはオランダ人G. van der Vliesによる創業以来、経営者も所在地も転々としており、明治3年の旧居留地79番地から、87番地、明治40年には海岸通り6番、昭和39年には現在の京町に移転しています。  年代と場所が事実と一致しなのですが、初代のオリエンタルホテルを描いたのは新田次郎『孤愁 サウダーデ』です。 <モラエスはオリエンタルホテルに泊る予定になっていた。その二階建ての洋館はすぐそこに見えていた。彼はトランクを両手に持った。ホテルまで歩こうかと思ったほどそれは問近にあった。ホテルの蔭にかくれて山が半分見えなくなっていた。>    昭和10年代の海岸通りにあったオリエンタルホテルが登場するのは、谷崎潤一郎『細雪』です。冒頭近くで、芦屋に住む蒔岡家三姉妹の雪子の見合いをこのオリエンタルホテルでするところから始まり、雪子の縁談がまとまったときの会食もこのホテルで行われます。   小説『バラード神戸』では2007年までのオリエンタルホテルの変遷が紹介されています。<それから約一世紀、激動の時代に翻弄されながら受け継がれてきた名門のステイタスも、経営上の損益が問われる市場原理優先の時代となった。さらに阪神・淡路大震災に被災という不運も重なり、神戸市周辺に展開していたホテルグループも分解されて、ほとんどが外国資本の支配下に入り、本体の会社も2007年に清算して百四十年近い歴史を閉じた。> その後、小説では中内功と思しき人物のホテル経営について厳しい批判が述べらますが、私は失敗したとはいえあの時代の経営者としては立派な人物であったと思っています。    また物語の中で、主人公内田修平が映画『卒業』で恋人の母親から誘惑された若者(ダスティン・ホフマン)が、街一番の名門ホテルのフロントでのチェックインのときの様子を話し、そのクラークの対応について<まさに大人の対応ですね。笑いましたよ。涙が出るほど。このユーモアとペーソスを自分のものにしたホテルマンになりたいというのが、その後の私の目標になりました。>と語ります。 そのシーンを私は覚えていないのですが、須賀敦子さんの「オリエント・エクスプレス」に収められたエディンバラのステイション・ホテルでのバトラーとのやり取りを思い出していました。留学していた須賀さんは父親の勧めでステイション・ホテルに宿泊しようとしますが、ステイション・ホテルと言っても超一流ホテルで、予算にはとてもあいそうもなく、老バトラーに別のホテルを教えてもらいます。 <「正面のドアを出て、通りを渡ったところです。ちゃんとしたホテルだから、安心なさって大丈夫です。では、おじょうさん、よいご旅行を」………高すぎるカウンターの前で、あの立派な体格のバトラーに言い分をうまく伝えたいと、大汗をかいていた自分を思い出すとちょっとみじめな気もしたが、それでも、この話をしたら、きっとあの人はよろこぶだろう。>その対応はさすがイギリスの一流ホテルのバトラーと思ってしまいました。    さて色々な小説の舞台として登場する神戸オリエンタルホテル、経営者が変わりましたが、京町の神戸市立美術館の隣の元の場所に2010年に復活しており、どのような雰囲気になっているのかランチに訪ねてみました。  外観はホテルと思えないようなシンプルさ、隣の神戸市立博物館と一部でも雰囲気を合わせれば良かったのにと思います。   レセプションは最上階の17階、ロビーからは神戸メリケンパークオリエンタルホテルが見えています。 メインダイニングはオープンキッチン風、アジアのラグジュアリーホテルという感じです。 山側の眺めが良く、クラウンプラザ神戸(新神戸オリエンタルホテル)も見えています。 バーからの夜景もよさそうです。 エントランスやエレベーターの内部には昔のオリエンタルホテルの写真が飾られていますが、外装、内装ともにまったく昔のオリエンタルホテルの面影は残っていませんでした。   しかし、食事などはリーズナブルな価格で提供され、ホテルでの一人一人の応対も、まだ洗練されたという域には達せずとも、よく訓練されており、新生オリエンタルホテルとしてこれからどう神戸の町に馴染んでいくのか楽しみです。

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