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Channel: 阪急沿線文学散歩
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西宮の鰯売りのお話(岩谷時子『愛と哀しみのルフラン』より)

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 岩谷時子さんの『愛と哀しみのルフラン』で、最初に西宮に住んでいた頃の話題が出て来るのは「美味しさとは」と題したエッセイです。 <今日までの暮らしのなかで、いちばん美味しいと思って食べたものは、なんだったかと考えてみた。たちまち頭に浮かんだのは「明石で漁れたいかなご」「麦わらで巻いた郷里のかまぼこ」…なんのことはない。すべて食料の乏しい戦時中、ようやく手に入れた食べ物ばかりである。>   「いかなご」は谷崎潤一郎の大好物でもあり、渡辺たをりさんは谷崎が「東京ではこれは絶対に喰えない」と言っていたと次のように述べています。 <今でも何かにつけて一番よく思い出すのはやはり食べ物のことです。関西では「いかなご(かますごとも云う)」という小魚があります。丁度立春をすぎる頃になると卵をもって脂がのって来て美味しくなり、沢山出まわります。安い下魚ですがそれを食卓で焼きながらあつあつを二杯酢で喰べるのは大好物で、東京ではこれは絶対に喰えないんだよ、と眼を細めていくらでも召し上がりました。>    昭和11年に発表された谷崎潤一郎『猫と庄造と二人のをんな』では鰯のとれとれのお話がでてきます。 <阪神電車の沿線にある町々、西宮、芦屋、魚崎、住吉あたりでは、地元の浜で獲れる鯵や鰯を”鯵の取れ取れ” ”鰯の取れ取れ”と呼びながら大概毎日売りに来る。>とし、二杯酢にした小鯵を、猫にまるで曲芸を教え込むように食べさせる様子が生きいきと描かれていました。    岩谷時子さんも、大正から昭和の初めに西宮に住んでおられ、その頃の鰯売りについて次のように述べています。<物心つくころから成人するまで、私は海に近いところに住んでいた。鰯のとれる季節になると、鰯売りが、「とれとれの鰯やァ…」と、大声を張り上げ、天秤棒をゆすりながら、とれたての鰯を売りにきたものである。 鱗のキラキラした小ぶりの鰯で、きざんだ土生姜を入れて煮たり、鰯が大きいと湯豆腐にしたりしたが、たまには小鯵ばかりがとれる日もあって、これがまた、美味しかった。買ったばかりの小鯵を白焼きにして、甘酢を入れた丼に漬け、数時間おいて食べるのだが、子供心にも、この魚を香ばしいと思ったのを覚えている。> 当時岩谷さんは西宮のどのあたりに住まれていたのでしょうか。

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