Quantcast
Channel: 阪急沿線文学散歩
Viewing all articles
Browse latest Browse all 2518

『華麗なる一族』に登場していた思い出のカイザー・スチール

$
0
0
 山崎豊子『華麗なる一族』では、万俵家の次女・万俵二子と阪神特殊鋼の社員で鉄平を慕う一之瀬四々彦は密かに交際しており、二人が神戸の南京町で食事をする場面があり、こんな会話が交わされます。<「いいお店ね、よくいらっしゃるの?」「ええ、時々―、僕はこうした、熱気が漲っているような町が好きなんですよ、去年の春、ロスアンゼルスのカイザー・スチール社へ出張した時も、ロスのチャイナ・タウンへ晩飯を食べに出かけたんです」> 日本ではほとんど知られていないカイザー・スチールの名前が出てきたのには驚きました。上の写真は昭和49年の映画で、一之瀬四々彦を空港で万俵二子が迎える場面です。  一之瀬四々彦は鉄平と同じ東京大学工学部冶金学科に進み、卒業後はマサチューセッツ工科大学へ留学した経験を持ち、東大在学中から鉄平を慕っていた人物として描かれ、映画では北大路欣也が演じていました。 一之瀬四々彦がカイザー・スチール社へ出張した理由は、阪神特殊鋼で建設中の高炉操業の技術を習うためと述べられています。<四々彦は、昨年の末にロスアンゼルスのカイザー・スチール社へ高炉操業の技術指導を受けに渡米した時、シカゴへも寄り、南駐在員と会って、現地の事情をよく知っていたが、阪神特殊鋼の優れた技術に自信を持っていたから、最後まで事態の好転を信じているのだった。> カイザー・スチールは、第二次世界大戦中に船舶や武器製造のための鉄を供給するため西海岸に、初めて建設された製鉄所です。 ロサンゼルスのフォンタナにあるこの工場は、戦後も操業していましたが、1980年代に破産を宣言し、工場の多くは解体されました。上は1943年に稼働を開始した第1号高炉とエンジニアたちの写真です。 この日本ではあまり知られていないアメリカの製鉄所を山崎豊子さんがなぜ御存知だったのか不思議でなりませんでした。 調べてみると、神戸製鋼が神戸製鉄所の第1号高炉に火入れを行い、銑鋼一貫メーカーとなったのは1959年でしたから、神戸製鋼のエンジニアが高炉操業についてカイザー・スチールに指導を仰いだことは十分可能性があり、山崎豊子さんは取材時にそれを聞いて、小説に織り込んだのかもしれません。カイザー・スチールはハリウッドに近いことから、映画「ターミネーターⅡ」のサイボーグとシュワルツェネッガーの対決の場面がここで撮影されています。 その後1990年代に工場設備の一部は、中国の製鉄所に売却され、中国人が乗りこんで分解し、中国に輸送し再組み立てされました。 残りの部分はカリフォルニア・スチールに売却され、現在も圧延工場として稼働しています。私は、20年以上前になりますが、あるプロジェクトで2週間ほどカリフォルニア・スチールに滞在したことがあり、丁度中国人部隊が乗りこんで、製鋼工場の解体をしている時でした。その解体される製鋼工場を背にして撮った写真です。「ターミネーターⅡ」はこの工場の解体前に撮影されています。 色々思い出のある、カイザー・スチールの名前が『華麗なる一族』に登場していたのには驚きました。

Viewing all articles
Browse latest Browse all 2518

Latest Images

Trending Articles