山崎豊子『華麗なる一族』で阪神特殊鋼の銑鉄(高炉で製造した溶けた鉄を固めたもの)の購入先が帝国製鉄の尼崎製鉄所です。<資力が足らずに溶鉱炉を持てない特殊鋼メーカーは、どこでも、原料の大半がスクラップであったが、鋼の質をよくするために、溶鉱炉を持っている大手メーカーから銑鉄を買い入れて混入しており、阪神特殊鋼は地理的に最も近い帝国製鉄尼崎製鉄所から月三千トンの銑鉄を買い入れていた。> 阪神特殊鋼のモデルが山陽特殊鋼であれば、帝国製鉄尼崎製鉄所のモデルは、姫路にある富士製鐵広畑製鉄所(現在の新日鉄住金広畑製鉄所)と考えられます。<帝国製鉄の尼崎製鉄所は、阪神特殊鋼の約七倍、百七十万坪の広大な敷地を持っている。そこには十数棟の工場が並び、三基の高炉がひときわ高く聳えたっていた。>航空写真で見ると、左の大きく黄線で囲んだ所が、新日鉄住金広畑製鉄所。右の小さな黄線の丸で囲んだ所が山陽特殊製鋼です。 広畑製鉄所は昭和14年に日本製鐵によって銑鋼一貫製鉄所として建設された大製鉄所でした。昭和16年には遠藤新設計による京見会館を建設しています。 京見会館は現在も迎賓館として使われていますが、昭和51年に当時の皇太子ご夫妻、現天皇と美智子皇后が広畑製鉄所を訪問され、宿泊用に新館(遠藤新の設計ではありません)を増築していますが、宿泊された部屋は現在もそのまま保存されています。広畑製鐵所は、昭和25年に日鉄が解体され富士製鐵が継承、昭和45年には八幡製鐵・富士製鐵の合併により新日鉄広畑製鐵所となっています。広畑製鉄所も平成5年には高炉を休止しており、生産規模も戦前に比較するとかなり縮小しています。上の図は戦後最盛期の広畑製鉄所鳥観図。 映画でも帝国製鉄の高炉が出てきますが、この高炉の撮影は新日鉄か神戸製鋼の高炉だろうと想像しています。
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