久坂部羊は、阪大医学部を卒業し、医師となりながら、同人誌『VIKING』での活動を経て、2003年に作家デビューした異色作家です。 久坂部羊さん、笹舟倶楽部さんが紹介されていましたが、今年2月に西宮神社会館で講演会を開かれていました。 その著書『ブラック・ジャックは遠かった 阪大医学生ふらふら青春記』の「ティーハウス・ムジカでの運命の出会い」で、まだ移転する前のムジカで久坂葉子の描いた2枚の絵と出会ったことを述べています。<中之島界隈には今もオシャレな喫茶店が数多くあるが、私が医学生だった30年ほど前は、紅茶専門店のムジカが有名だった。ムジカは今は堂島に移っているが、以前は曽根崎新地にあった。ここでは世界中の紅茶を飲むことができ、また店名MUSICAからわかるように、店内に流れるクラシックの名曲を楽しむことができた。メニュには各紅茶の産地や風味、色合いなどが書かれていて、それを読むだけでも退屈しなかった。> 坂部羊さん自筆の80年代の中之島の思い出MAPというイラストが掲載されていました。この図ではムジカは北新地の西端にあります。このようなところに移転したこともあったのでしょうか。 現在、ティーハウス・ムジカは大阪の店舗は閉店し、芦屋と三宮センター街にあります。<臨床実習をしていた大学病院からも近かったので、私は友人たちや彼女とたびたびこの店に通っていた。そしてここである女性と運命的な出会いをしたのである。といっても、本人に会ったわけではなく、私が出会ったのはその女性が描いたスケッチだった。当時、ムジカの壁には、世界中の紅茶のラベルが隙間なく貼られていて、そのなかに2枚、古びたA4サイズの紙が混じっていた。1枚は鳥や花、もう一枚は海の中の魚や蛸が、黒いインクで実に奔放に描かれていた。鳥の嘴など、ふつうは輪郭を描くところを、ペンのたわみを生かした見事な線一本で表現されている。私は感心して、店の人に、これはだれの絵かと訊ねた。「久坂葉子という、戦後に芥川賞候補になって、阪急六甲で飛び込み自殺した女流作家が描いたものです」> その時は、そのまま聞き流していた久坂部羊ですが、その6年後の1983年の朝日新聞夕刊に掲載された奇妙なスケッチの写真に目をとめます。<女性の顔の絵で、右手で右目を隠している(鏡を見て描いた自画像なら、左手で左目を隠している)。その線の見事な勢いが、以前、ムジカで見たスケッチと同じだったのである。記事を読むと、果たして久坂葉子の作品とある。彼女の遺品が30年ぶりに菩提寺から実家にもどされたのを機に、神戸で展覧会が開かれるとあった。>そこから久坂葉子に惹かれた久坂部羊は富士正晴に連絡し、何度か会ううちに、同人誌『VIKING』の例会に来るように言われ、しばらくして同人にしてもらったそうです。「中之島の思い出MAP」に久坂部羊さんが「ムジカにあった久坂葉子が描いた鳥の絵」というk久坂部羊のイラストがありました。『久坂葉子作品集』の表紙の絵は久坂葉子の描いた絵ですが、これに近い鳥の絵だったのかもしれません。<「ムジカ」には今も久坂葉子のスケッチと新聞記事が飾られている。>と書かれていましたが、三宮のムジカにはありませんでした。ひょっとして芦屋の現在の本店にあるのでしょうか。
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